大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和29年(行モ)1号 決定

申立代理人は、被申立人が昭和二十九年五月五日付でした申立人等に対する懲戒免職処分の執行を、右処分に対する本案訴訟の判決があるまで停止する、被申立人が同年四月一日付でした、申立人北小路に対する京都市立二條中学校への、申立人寺島に対する京都市立柳池中学校への、申立人山本に対する京都市立四條中学校への、各転補処分の執行を、右各処分に対する本案訴訟の判決があるまで停止する、との判定を求め、その申立の理由として、申立人等は京都市公立学校教員で、京都市立旭ケ丘中学校教諭として勤務していたところ、被申立人は人事の刷新、教育運営上の必要から行つた京都市教員異動の一環として、昭和二十九年四月一日付をもつて、申立人北小路を京都市立二條中学校教諭に、申立人寺島を京都市立柳池中学校教諭に、申立人山本を京都市立四條中学校教諭に各転補する旨の発令をした、然しながら右各転補処分は被申立人の会議による議決を経ずに、京都市教育長不破治の専決によつてなされたものであるから違法である、すなわち教育委員会法第五十二條の二、京都市教育委員会通則第二十二条第一項によつて、通常の教員の人事異動に関する事務は原則として教育長に委任されてはいるけれども、「異例に属するもの、又は規定の解釈上疑義があるもの若しくは特に重要なもの」は、除外されており(同項第十七号)、これらについては同法第四十九条第五号によつて教育委員会がその議決を経て行わなければならないのである、そして申立人等に対する右転補処分は、正にこの「異例に属するもの」であるからである、思うに、これが「異例に属する」理由は、通常の人事異動は慣例として発令前に本人の希望を尊重して、学校長より教育長に対して内申がなされ、これに基いて教育長が人事異動を内定して、発令前にこれを内示し、本人に異議申立の機会が与えられているのであるが、申立人等に対する右転補処分は、申立人等の意思に反して旭ケ丘中学校橋本前校長より、「申立人等を転勤させなければ後任の校長になり手がない」旨の内申が出され、これに基いて教育長より異動の内示が出されたもので、申立人等は発令前に異議を申立てたし、右橋本前校長も内申を徹回したのにもかゝわらず、教育長不破治は、自由党員である被申立人委員長福原達朗の政治的圧力に屈して右各転補処分を強行したものであつて、通常の定期人事異動に名をかりた政党による教育の不当支配という異例の人事に属するものだからである、申立人等は、かゝる違法かつ不当な転補処分に服することは、事実無根のいわゆる偏向教育を是認することゝなるのみならず、教育者としての良心に反するので、これを拒否し従前通り旭ケ丘中学校に勤務していたのである、ところが被申立人は、右各転補処分を強行しようとして職務命令を出したので、申立人等がこれを拒否したところ被申立人は不法にも同年五月五日付をもつて、申立人等を地方公務員法第二十九條第一項第一号及び第二号に該当するものとして、懲戒免職してしまつた、然しながらこの処分は違法かつ不当な前記各転補処分を前提とするものであるから、違法であること多言を要しないのみならず、議決の手続に重大なる瑕疵があるので違法である、すなわち教育委員会法第三十七條によれば、「教育委員会の会議はこれを公開する」と明記されているのにかゝわらず右免職処分を議決した同日の会議は、秘密会に入る旨の決議がなされる以前から京都市役所の表門を閉じて傍聴人の立人を禁止し、会議開催の告示も市役所裏口よりこつそり出て表玄関の掲示場に掲示されたにすぎず、終始非公開のまゝ開催されたものであるからである。

以上のとおり本件各処分は違法かつ不利益なものであるから、申立人等は右免職処分の理由説明書の交付を受けた同日から三日を経過した同月八日に被申立人に右転補処分の理由説明書の交付を請求すると共に、京都市人事委員会に対して、右各処分の取消を求めるため審査の請求をしたのであるが、この判定をまつていては申立人等はもとよりその扶養家族の生活が危殆にひんするおそれがあるのみならず、教育上ゆゝしい大問題をひき起し、教育界にも重大なる悪影響を及ぼすおそれがあるので、同月十一日に被申立人を被告として京都地方裁判所にこれが取消の訴(昭和二十九年(行)第四号)を提起したのである、そしてこの判決があるまでには相当の日子を要するのみならず、申立人等の生活が困窮に陥ることは自明のことであり、又教育の不当支配を排除し、民主主義と教育の自主性を守るために、これら各処分の強行を阻止すべき緊急の必要があるから、本申立に及んだと陳述し、疎明として、疎甲第一号証の一乃至三を提出した。

そこで当裁判所は、審訊期日を開いて被申立人の意見をきゝ、審理をすゝめていたところ、内閣総理大臣は同年六月十一日に当裁判所に対し、本件行政処分の執行停止に関して、被申立人は、同年四月一日付をもつて人事の刷新、教育運営上の必要から京都市教員異動の一環として、申立人北小路を京都市立二條中学校教諭に、申立人寺島を京都市立柳池中学校教諭に、申立人山本を京都市立四條中学校教諭に各転補する処分をなしたところ、申立人等は不法にも右処分にも反対し、速かに赴任すべき旨の職務命令にも従わないので、同年五月五日付をもつて、地方公務員法第二十九條により、申立人等に対して懲戒免職処分をなした、そして申立人等は右処分に抗議するためと称して教職員組合その他労働組合の組合員等とゝもに被申立人の管理権を排除し、不法に京都市立旭ケ丘中学校々舎を占拠して、いわゆる管理授業を行い我が国教育史上未曾有の不祥事件を惹起するに至つたのであるが、同年六月一日被申立人と京都教職員組合との間に、同中学校在籍の教職員全員を短期間に他の学校に転出させ、同日より同中学校の授業を再開する旨の協定が成立してようやく解決の緒についたのである、然るところ、いまもし裁判所の命令によつて被申立人のなした本件懲戒免職処分及び転補処分の執行が停止されるに至ると被申立人の教職員に対する人事行政を混乱せしめるとゝもに今後その円滑な逐行を困難ならしめ、学校教育の正常な運営を阻害するばかりでなく、ようやく緒についた前記事件の解決策を根底から覆し、再び同校における紛擾を誘発する虞があるのみならず、その結果いかんによつては、さらに各地にこれに類する紛争を惹起せしめる虞なしとしない、本件の帰趨は、教育界のみならず一般国民の注視するところであつて、一京都市立中学校の問題たるに止まらず、その学校教育に影響するところは、極めて広く且つ重大であり、従つて本件処分の執行停止を見るにおいては政府の念願する教育行政の円滑正常な運営は、期待し難い結果となるといわなければならない、よつて内閣総理大臣は、行政事件訴訟特例法第十條の規定により本件行政処分の執行停止に関し異議を述べる次第である、との理由を付して異議を述べた。

行政事件訴訟特例第十條第二、三項によれば、行政処分の執行停止に関して内閣総理大臣が理由を明示して異議を述べたときは、裁判所は処分の執行を停止すべきことを命ずることができないことゝなつているので、本件各申立を却下することゝし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 青木英五郎 石崎甚八 坂本武志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!